イタリアの工房で目にした、あの職人との「出会い」から始まった

継承される機能美:テバジャケットと私

イタリアの工房での「違和感」

それは、前職で何度も足を運んだイタリア出張のひとコマでした。
いつものように生地の買い付けなどでイタリアにある工場や工房を巡っていたとき、私の目はある一人の職人に釘付けになりました。
彼が纏っていたのは、普段見慣れたスーツでも、作業用のラフなワークウェアでもない、少し不思議な造形をしたジャケットでした。

「それは、何ですか?」
思わず尋ねた私に、彼は作業の手を止めることなく答えました。
「これはテバジャケット。スペイン発祥の服だよ」

昔色々調べていた時に知ったテバジャケットではあったものの、昔の私は若く新しい物が好きで正直に言えば、当時の私にはまだその真価を理解しきれておらず、遠い国のなんだか変わっているけどカッコイイ服、という程度の印象でしかありませんでした。

重なる年月と、変わりゆく感性

月日は流れ、スーツ業界の変遷を肌で感じつつ私自身もキャリアと年齢を重ねていきました。
多くの服に袖を通し、知識を深めていくなかで、ある日ふと、あのイタリアの工房で見た「袖をまくって働く職人の姿」が鮮明に蘇ってきたのです。
シャツのように軽やかに袖をまくり、それでいてテーラードの品格を失わないあの佇まい。

「今、自分が本当に着たいのは、あんな風に自由で、かつ凛とした一着ではないか」
かつては響かなかったその機能美が、時を経て、今の自分の感性に強く共鳴し始めました。

「しかし、これは今の時代に受け入れられるのか?」
効率とスピードが重視される現代において、背中心さえ持たない、ある種「不完全」とも言える引き算の構造は、既存のスーツのルールからは逸脱していました。市場にはもっと安価で、シワにならない化学繊維のジャケットが溢れています。
それでも、あの職人の「自由な佇まい」に勝る合理性を、私は見つけられませんでした。

シャツとジャケットの幸福な関係

テバジャケットの本質を探求するなかで見えてきたのは、無駄を削ぎ落とした「引き算の美学」でした。
基本はテーラードの技術で仕立てられながら、袖口はシャツのようなカフス仕様。裏地を一切省いた構造は、まるで「オーバーシャツ」のような軽快さを生んでいます。背中に一本の継ぎ目(背中心)さえ持たないその作りは、徹底的に「軽さ」と「着心地」を追求していました。

襟を立てれば、ルーツである狩猟用服のようなストイックな表情を見せ、襟を倒せばジャケットとしてビジネスの場にも馴染む。それは、まさに現代の使い手が必要とする多機能性そのものでした。

伝統を「日常」のスタイルへ

私はこの伝統的な名品を、現代の日常に馴染む形へとアップデートさせたいと考えました。
本来のスタイルにはない「セットアップ」としての提案。
これは日本のビジネスシーンに馴染むだけでなく、上下バラして使うことで週のワードローブを劇的に効率化します。
一着のセットアップが、オン・オフ・トラベルという3つの役割を果たします。

ネイビーの端正な一着から、冬を彩るハリスツイード、そして清涼感のあるリネンやタフなデニムまで。
さらに、シングルだけでなく本家本元のサファリテイストは勿論の事、実際には恐らくないダブルブレストといった3つのモデルを展開することで、テバジャケットは特定のシーンに縛られない「日常のワードローブ」へと生まれ変わります。

あのイタリアの工房で感じた「かっこいい」という直感。
それは、長い年月を経て、私の手によって新しいスタイルとなり、今ここにあるのです。